2009年9月15日火曜日

神通力(20090915)

 男は東横線学芸大学駅の近くの古本屋に時々立ち寄っている。その古本屋は狭い空間を精一杯利用するように本棚を配置していて、人一人すり抜けるのに若干身を傾けたりしなければならないほどである。ぎっしり詰まった本棚の間の通路を右左に曲がって行くと奥に店のカウンターがある。入口はワンタッチ式の自動扉になっていて、中に入ると落ち着いた静かな心地よい軽音楽が耳に入る。入ってすぐ左手の棚にアメリカインディアンに関する古本や有史前の現人類のことに関する本などが並んでいる。この古本屋は漫画などガキ達が好むような古本は売っていない。

 先日男はこの古本屋で『夢窓国師 夢中問答集』(講談社学術文庫)を買った。新品同様であるが価格は800円であった。男は毎年詩吟のサークルで使うテキストを作っているが、来年の2月の吟題は夢窓国師の『修学』を選んでいる。「一日の学問 千載の宝 百年の富貴 一朝の塵 一書の恩徳 万玉に勝る 一言の教訓 重きこと千金」という詩である。男はこの詩について解説をするため勉強しようと思い、この本を買ったのである。

 夢窓国師は建治元年(1275年)に伊勢の源氏の家(佐佐木氏)に生れ、母は平氏であったという。77歳で没している。男と女房が度々訪れる鎌倉に縁が深く、夢窓国師23歳の時円覚寺で才能を見いだされ、25歳の時元(中国)から来朝していた寧一山の許で建長寺の首座になり、その後紆余曲折はあったが寧一山の教えを受けている。

 この本のページをめくってゆくうちに「那一通」という項目が目にとまった。「問」に「得法の人は必ず神通妙用を具足すべしや」とあり、「答」に「仏法を知らざる天魔外道も、神通をば施す。神通を具せる人なればとて、得法の人とは申すべからず。・・・」とある。彼のオウム真理教も天魔外道であったのだ。

 その神通力のうち六通は、天眼通(普通見えないものを見透すこと)、天耳通(普通聴き取ることができない物音を聞き取ること)、他心通(他人の心の中を見抜くこと)、宿妙通(前世のことを忘れないこと)、神境通(空を自在に飛びめぐること)、漏尽通(煩悩を断ち尽くすこと)の六つであるという。

 夢窓国師は、天魔外道の人は漏尽通ができずそれ以外の五通しかないと説く。幸福実現党を立ち上げ誰も当選しなかった宗教法人は天魔外道ということになる。男は漏尽通を有しない団体には法人税が優遇される宗教法人の資格を与えるべきではないと考える。

 『夢窓国師 夢中問答集』には、六通は世俗の通であり、古人は世俗を離れた聖者にはその六通以外に更に那一通が備わっていることを知るべきであると言っていると説いている。那一通とは、そのような聖者には増減、勝劣なく、一切の神通妙用、見聞覚知、日常一切の動作が極めて自然で、例えば偉ぶることもなく他の人と同じように下働きの作業も一緒に行うことが当たり前のように行うことであるという。

 男は、漏尽通以外の五通は知識を高め、想像力を豊かにし、意識を過去から未来まで延長するならば、誰でも身につけることができるものであると思っている。日々の勉強や心がけ次第では、その能力は益々高まって行くと思っている。男自身、そのことを実感している。そうすると、物事が思っていたとおりに運んだとき、それはたまたま偶然そのようになったのではなく、必然的にそのようになったと考える。そのようにものごとを受け止めると、そのような偶然(本当は必然)が起きる回数がますます多くなるように思う。